課題B 先端的な火山観測技術の開発

概要

事業・課題の概要

火山災害の軽減に有用な火山噴火の切迫度評価の高度化のため,1~4のサブテーマで以下の事業を行う.
①多種類の微弱な観測事象として現れる噴火先行過程を捉えるため,新たな観測手法を開発してより多くの情報を得る.
②新たな観測手法も含めて,既存の装置・データも活用して,現時点における各火山の活動状況・切迫度を評価を支援するための基盤データの蓄積と,噴火先行現象の信号を即時的に判断する各種ツールを開発する.

成果目標及び実施方法

【サブテーマ1】宇宙線ミュオンによる火山透視像と火山活動の相関をデータベース化し,火山活動評価への展開
【サブテーマ2】リモートセンシング技術(地上設置型合成開口Radarの開発,分光スペクトル画像計測装置の小型化)の高度化
【サブテーマ3】火山ガス同位体分析技術の高度化による火山ガス起源(=水蒸気噴火かマグマ噴火かの判断基準)の推定手法開発
【サブテーマ4】全国の火山における計画的な精密機動観測による活動現状把握とデータベース化.観測データの即時処理を行うツール開発.

アウトプット・アウトカム
  • 火山噴火切迫度を評価するための新たな観測技術及び観測指標を見出し,防災情報発表機関に提供.噴火警報・予報の高度化に貢献.
  • 国際協力で推進することが効果的な宇宙線ミュオン開発や火山ガス同位体分析技術の高度化研究による研究の国際化の推進.
  • 全国の火山研究者の協力で推進する精密機動観測,リモートセンシング技術の高度化の推進による実践的な次世代人材の育成.
事業・課題の実施体制
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【採択機関・事業責任者】
国立大学法人東京大学
地震研究所教授  大湊 隆雄

これまでの研究により,火山噴火に先行して発生する現象の理解が進みました.経験的に行ってきた前兆現象に基づく噴火発生の予測が,先行現象の科学的な理解に基づき噴火予測がある程度実現でき,どのような災害に結び付くかなどの情報が得られるまで,あと一歩のところまで来ていると感じています.次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトにより,全国の火山研究者と力をあわせて火山災害軽減に有用な研究の加速を目指します.

サブテーマ1
新たな技術を活用した火山観測の高度化
事業・課題の概要

新たな技術を活用した火山観測の高度化を目指して,以下の研究事業を実施する。
①火山体浅部の構造を高解像度に把握するために、ミュオグラフィ技術の高度化を行う。
②火山活動とミュオグラフィ透視画像の関連の系統的な評価をめざし、ミュオグラフィ観測のデータ処理の自動化を行う。

成果目標及び実施方法
  • ミュオグラフィ技術の高度化に関わる研究開発:軽量、高解像度火山透過システムを開発し、ミュオグラフィ観測システム(MOS)への実装を行うことで、より短い時間で、高解像度火山透視画像取得を実現。
  • 桜島浅部透視データを観測点から高速にかつ安定的に自動転送するシステムを完成させ、透視データのウェブベース処理システムを開発し、1日1枚以上のレートで透視画像の実時間公開を行う。
アウトプット・アウトカム
  • 火山体透視結果により火山体浅部の構造を高解像度で把握し、噴火様式の予測や、噴火推移予測に関する情報提供に貢献。
  • 噴火現象を含む火山活動の推移に伴う火口近傍の変化をミュオグラフィ透視画像として実時間で公開することにより、リアルタイム噴火予測や防災に貢献。
事業・課題の実施体制
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【分担責任者】
国立大学法人東京大学
地震研究所教授  田中 宏幸

素粒子ミュオンによる火山透視技術(ミュオグラフィ)は視覚化可能範囲が火山浅部に限られますが、地球上に絶え間なく降り注ぐミュオンの高い直進性を利用することで、高解像度かつ時系列的な視覚化が連続的に可能です。
本研究テーマでは従来の透視画像の解像度を飛躍的に向上させ、さらに活動的火山火口近傍のミュオグラフィ透視画像にリアルタイムにアクセスできる環境整備を行うことで、火山活動とミュオグラフィ透視画像の関連についての系統的な評価につなげます。

サブテーマ2
リモートセンシングを活用した火山観測技術の開発
事業・課題の概要

火山活動の推移予測に重要な火口周辺の変化を、噴火発生時等においても、遠隔地から詳細に観測できる技術を開発する。具体的には、可搬型レーダー干渉計および衛星SARを用いて、火口周辺の地殻変動を任意の時間と場所で観測できる技術を開発する。また、分光技術を用いて、火口周辺への立ち入りが困難な場合においても、火口周辺の熱・ガス分布を計測する技術を開発する。

成果目標及び実施方法
  • 火山活動活発化時等に、機動的な観測が可能な植生の影響を受けない可搬型レーダー干渉計を開発する。
  • SAR研究グループ(PIXEL)と連携し、衛星SARによる地殻変動データベースを作成する。
  • 温度・放熱率・ガス・岩石分布および地形データを同時に計測できる小型温度ガス可視化カメラ(SPIC)を開発する。

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アウトプット・アウトカム

これらの技術開発により、観測が困難であった火口周辺の変化を、これまで以上に詳細に捉えられるようになり、火山活動メカニズムの理解や火山活動推移予測に役立つと期待される。また、可搬型レーダーで観測したデータを迅速に共有するツールや、SPICを現業機関等に試験提供する量産型の試験機を開発する。これにより、次世代火山研究の推進、火山活動評価への利用に役立てられる。

事業・課題の実施体制
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【分担責任者】
国立研究開発法人防災科学技術研究所
火山防災研究部門主任研究員  小澤 拓

我々の研究テーマでは、地表変動を計測するレーダー技術と、熱・ガス等の分布を計測する分光技術に関する開発を行います。これらの技術開発により、観測が困難であった火口周辺の表面現象を、これまで以上に詳細に捉えられるようになると考えています。そして、その観測はさらなる火山活動メカニズムの理解や確度の高い火山活動推移予測につながり、将来の火山災害の軽減にもつながると期待しています。
(R5.6.1~R6.3.31の期間は、国立研究開発法人防災科学技術研究所 火山防災研究部門主任研究員 實渕哲也が分担責任者となります。)

サブテーマ3
地球化学的観測技術の開発
事業・課題の概要

本サブテーマでは、最先端の質量分析技術とレーザー分光分析技術を駆使して、火山ガスや温泉水溶存ガス・土壌ガスの化学成分濃度や同位体比をオンサイト(その場)で計測する技術を開発します。これをマグマ起源ガスの上昇状況の把握や噴気温度の推移観測に応用することで、噴火の切迫度評価の高度化と、噴火タイプの迅速な判別に貢献します。また陸上・海底の火山から放出される火山ガスの採取・分析技術や、同位体比の高精度・高スループット測定技術の開発を通して、高度な分析技術を習得した、将来の火山化学の担い手を育成します。

成果目標及び実施方法
  • ヘリウム・炭素同位体比のオンサイト分析による、火山周辺のマグマ起源ガスの上昇状況の把握と放出量推定の高度化。
  • 噴煙中の水蒸気等の水素・酸素同位体比のオンサイト分析による、噴気温度測定や噴火タイプ(水蒸気爆発/マグマ爆発)判別。
  • 火山ガス成分濃度の高時間分解能連続観測による火山活動度モニタリング。
  • 可搬性の高い小型採水システムと小型船舶を用いた、継続的な海底火山活動観測法の確立。
アウトプット・アウトカム
  • 噴煙の化学組成・同位体比を指標として検出したマグマ活動状態の変化は、火山の噴火切迫度評価に利用可能。
  • マグマの流路(火道位置)とも関係しうる火山周辺のマグマ起源ガスの上昇状況の把握は、噴火ハザードマップの高度化へ貢献。
  • 浅海の火山活動による船舶航行への影響を見積もり、防災に貢献。
  • 高度な分析技術に立脚した、火山化学研究者の育成。
事業・課題の実施体制
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【分担責任者】
先端科学技術研究センター 地球環境化学分野
教授  角野 浩史

火山ガスや温泉水の同位体比は、マグマの活動度を反映して変動することがありますが、分析には化学処理と大型の質量分析計が不可欠で、その場(オンサイト)分析はこれまで不可能でした。噴火の先駆現象かもしれない同位体比変動が、事後にしか判明しないことに歯がゆい思いを私自身してきましたが、本事業では最先端の質量分析技術とレーザー分光分析技術を駆使してこの現状を打開し、リアルタイム・オンサイト同位体比分析を実現します。

サブテーマ4
火山内部構造・状態把握技術の開発
事業・課題の概要

火山災害の軽減に有用な火山噴火の切迫度評価の高度化を目指して,以下の研究事業を実施する.
①噴火切迫度の評価は,微弱な観測事象として現れる噴火先行過程を捉え,それを評価することが有用であることから,全国の活動的な火山において,順次各種の精密な観測を集中的に行い,現状の把握と基準となる観測データを得る.
②微弱な噴火先行現象の信号を即時的に判断するため,それを支援する各種ツールを開発する.

成果目標及び実施方法
  • 霧島山,三宅島,有珠山,伊豆大島等の全国の活動的な約10火山において,機動的に各種の精密な観測や地下比抵抗構造探査の行い,現状の活動や火山体内部構造を把握すると共に新たな切迫度指標を見出す.これらの火山が活発になったときには,取得したデータと比較することで,噴火切迫度の評価の高度化に繋げる.
  • 地震計アレイデータ解析システム,地下比抵抗・熱水流動解析システム等各種観測データを即時的に解析し,噴火切迫度評価を支援する解析ツールを開発し,噴火切迫度評価の迅速化に繋げる.
アウトプット・アウトカム
  • 火山噴火切迫度を評価するための新たな観測指標を見出し,気象庁等の防災情報発表機関に提供.噴火警報・予報の高度化に貢献.
  • 対象とする火山のそばにある大学等が中核となって活動を高精度に調査し.その情報を地元に還元し,火山防災リテラシー向上に貢献.
  • 次世代の火山防災を担う若手研究者等に実践的なフィールド観測の場を提供し,現場教育に基づく人材の育成に貢献.
事業・課題の実施体制
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【分担責任者】
国立大学法人東京大学
地震研究所教授  大湊 隆雄

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